今回はモンステラの冬越しでヒートマットが経済的で効果があっていいですよ、という内容です。
モンステラの冬の基本情報
冬の室温は何度がいいのか
観葉植物全般に言えることなのですが、基本的に観葉植物は冬の寒さに弱いです。
モンステラも例外ではなく、だいたい最低気温10℃を下回ると弱ります。
そこで冬にどうやって加温するか、というのが非常に重要です。
基本的に屋外で管理していた株を室内に移して、ダンボールなどで夜間囲ってあげることで寒い夜に保温して冬を超すというのが一般的です。
我が家の冬の実測ではだいたい外の気温プラス5℃から10℃というのが屋内の室温になります。
プラス5℃は隣の部屋はすぐ屋外という冷たい縁側の話なので、リビングとかだとプラス10℃くらい行けると思います。
そして、例えば東京の最も冷え込む1月〜2月の最低気温はだいたい2℃程度なので、リビングならおそらく10℃以上を保てるのでダンボール保温で乗り切れて、縁側だとちょっと厳しい、みたいになります。
もちろん晴れた日は明るい場所に移してあげましょう。
その他の注意
- 水やりは成長が緩慢になるので、土が乾いてから2日後くらいにたっぷり与える(根腐れ防止)
- たまに葉水するとなお良い
- 風通しが多少いいくらいの環境が良い
- 肥料は与えない
- 選定と植え替えは控える
まあこれは今回の本質的なテーマではないので、詳しくは以下のプロのサイトをご覧ください。
参考:AND PLANTS, モンステラの冬越し方法|トラブルと対処方法について
加温の経済性を高める方法
確かに関東なら基本的に冬の最低気温が2℃程度なので多くの地域で室内で簡単に冬越しが可能です。
ところが、東北・中部・中国・四国・九州などでは冬の最低気温マイナス3℃くらいの地域も多く、室内もリビングでさえ7℃くらいになってしまう可能性が高いです。
そこで加温、要するに植物のために何らかのヒーターで温める仕組みが必要になります。
エアコンだと確かにセラミックファンヒーターよりは省エネなので、部屋全体を温めたいなら良いのですが、植物のエリアだけピンポイントで温めたほうが経済的です。温める体積が減れば必要なエネルギーが圧倒的に下がるからです。
そして局所的に温める技術には家庭園芸レベルでは2種類の方法があります。
- 電気ヒーターで密閉空間を温める
- ヒートマットで根っこ(土)だけ温める
まずこの両者の経済性から考えます。
電気ヒーターというのは以下のような商品です。
電気ヒーターで密閉空間を温める
細かい話をしていくので、結論だけ知りたい場合はこの章の最後だけ見てください。
例えば私の部屋の場合、朝方の室温は9℃くらいで、目標ヒーター温度を13℃にしたとします。
ここからヒーター出力を150Wとして、何時間稼働すれば13℃を維持できるのかというのを計算します。
まず熱負荷という、室内の温湿度を一定に保つために必要な熱量を考えます。計算の詳細は以下の記事を参考にしました。
参考:Panasonic, 熱負荷の計算のやり方とは?算定に必要な項目ごとに求め方を紹介
これによると、熱負荷に使う計算は以下となります。
熱負荷[W]=熱が伝わる面積[m2]×熱貫流率[W/(m2・K)]×隣の部屋との温度差[K]
ここで普通のビニール温室の熱貫流は以下の情報から6.4[W・m-2・℃-1]としました。
参考:農林水産省, Ⅱ 温室の保温性向上技術
ビニール温室の大きさは約幅70cm×奥行50cm×高さ120cmくらいの一般的な大きさを想定します。この表面積は以下となります。
上と下の面積=0.7[m]×0.5[m]×2=0.7[m2]
側面の面積=1.2[m]×0.5[m]×2=1.2[m2]
前後の面積=0.7[m]×1.2[m]×2=1.68[m2]
合計表面積=0.7+1.2+1.68≒3.6[m2]
また温度差は9℃から13℃なので4℃とします。
以上より熱負荷は以下となります。
熱負荷[W]=3.6×6.4×4≒93[W]
ここでヒーターを使っていたい時間を8時間とすると、150Wヒーターを使う時間をx[時間]とすることで以下の計算式が成立します。
13℃を維持するのに必要な総エネルギー[J]=ヒーターが稼働して生み出す総エネルギー[J]
すなわち
93[W]×8[時間]=150[W]×x[時間]
よって
x=93×8/150≒5[時間]
150Wを5時間使うので150×5=750Wh程度一晩で消費します。
ヒートマットで根っこ(土)だけ温める
以下のBRIMのヒートマットを外気温がマイナス3℃、夜間室温9℃程度、設定温度13℃でスイッチボットのスマートコンセントで測ったところ、6時間稼働させたら0.2kWh(200Wh)程度になりました。
これだけだと理論的に妥当なのか検証できないので、上の熱負荷の考え方でヒートマットの稼働時間を算出して妥当性を考えてみます。
鉢全体の温度に関して
熱負荷[W]=熱が伝わる面積[m2]×熱貫流率[W/(m2・K)]×隣の部屋との温度差[K]
だったので熱負荷=(鉢の上方の土の熱負荷)+(鉢のプラスチック部分の熱負荷)とします。
温度差は9℃から13℃として4℃とします。
鉢は7号鉢(直径22cm程度・高さ18cm程度)を利用するとして、ここに温度センサーを刺すとします。
土の面積は0.11[m]×0.11[m]×3.14≒0.038[m2]
土の熱貫流は一般的な建築用の土の熱伝導率1.0[W/(m・K)]を用いて(参考:マグ・イゾベール株式会社, 部位の熱貫流率早見表)、以下のように算出します。厚みは9cm(中心)とします。
土の熱貫流=1/(空気の熱抵抗+(材料の厚さ÷土の熱伝導率))=1/(0.11[㎡・K/W]+(0.09[m]÷1.0[W/(m・K)]))≒5.0[W/m2・K]
空気の熱抵抗や熱貫流の求め方は以下のサイトを参考にしました。
参考:株式会社ポラリス・ハウジングサービス, 熱貫流率(U値)とは|計算の仕方【住宅建築用語の意味】
よって
(鉢の上方の土の熱負荷)=0.038[m2]×5[W/m2・K]×4[K]≒0.76[W]
次は鉢の部分の熱負荷を求めます。
形は色々あるのですが、今回は簡単のために直径22cmの円柱で考えます。
円柱の円周の側面積は2πrhです。(r:半径、h:高さ)
よって側面積は0.22[m]×3.14×0.18[m]≒0.124[m2]
プラスチックの熱貫流を求めるところから始めます。
原料をポリプロピレンとすると熱伝導率は0.125[W/m・K]です。(参考:株式会社八光電機, ■ 各種物質の性質: 非金属固体の性質)
厚みを3mmとすると
プラスチック鉢の熱貫流=1/(空気の熱抵抗+(0.003[m]÷0.125[W/m・K])+土の熱抵抗)=1/(0.11+(0.003÷0.125)+(0.09[m]÷1.0[W/(m・K)]))≒4.47[W/m2・K]
よって
プラスチック鉢の熱負荷=0.124[m2]×4.47[W/m2・K]×4[K]≒2.2[W]
よって全体の熱負荷=0.76[W]+2.2[W]=2.96[W]となります。
ヒートマットが長方形(33X53cm)つまり0.175[m2]程度になるので、例えば植木鉢7号の底面積を0.11[m]×0.11[m]×π≒0.038[m2]程度として、この割合を求めると0.038÷0.175≒0.22=22%程度になります。
つまり植木鉢に実質供給できる熱は60[W]×0.22≒13.2[W]
ここで熱負荷が3[W]程度、実質植木鉢に供給できる熱が13[W]程度。
まあ十分加熱できますね。
ただ植木鉢の底は最大直径より小さいので、大雑把に底面の面積をその半分とすると6.5[W]くらいで加熱すると考えられます。
熱負荷を考えると稼働時間6時間では2.96[W]×6[時間]=6.5[W]×x[時間]と考えて
x=2.96*6/6.5=2.73[時間]
つまり60Wヒーターが2.73時間ついていたので164[Wh]くらいになるかと。
実際スイッチボットのスマートコンセントで測ったところ、外気温-3℃、室温9℃、ヒートマット13℃設定で6時間稼働させたら0.2kWh(200Wh)程度になったのでまあ大きく外していないと思います。
経済性の比較
家庭用の温室を電気ヒーターで8時間温めるのに750Wh程度一晩で消費します。
同様の温度を根っこだけ維持するのに60[W]×2.73時間=160[Wh]一晩で消費します。
つまり電気消費量的には160÷750≒0.21=21%程度まで消費電力を低く維持できるということです。
電気代的には79%程度削減できます。
まあ電気ヒーターは温室にどれだけ鉢を入れられるかで経済性が変わりますが、基本的に150W以下のラインナップって園芸用では無くて、最低でも150Wモデルを用意しないといけないところ、ヒートマットは60Wくらいの製品が選べるので、その意味では少ない鉢を温めればいいとなればヒートマットの経済性は高いといえるでしょう。
ただし、「根っこだけ温めて大丈夫なのか?」という疑問が沸くと思います。
それについて解説していきます。
根域加温というのは広く園芸で使われているテクニック
基本的に葉の部分の室温を適温より5℃程度下げて、その代わり根を適温くらいに維持するような管理で園芸用作物の草体や収量が適温で維持したときと同程度になるという研究が結構あります。
例えば以下の文献(1)によると、第 2 表より、室温を8℃以上に維持して根域を13℃以上に維持した結果(8°C/13°C)と、室温を13℃以上に維持する場合(13°C/無加温)、葉の数は(8°C/13°C)でひと株あたり103.7枚、(13°C/無加温)でひと株あたり106.7枚とほとんど差がないという結果でした。
文献(1):村松 嘉幸, 窪田 聡, 腰岡 政二, 冬季の根域加温はインパチェンスの生育促進に効果的である, 園芸学研究/16 巻 (2017) 3 号
さらに文献(1)によると同様の表から室温を8℃以上に維持しつつ根域を18℃以上、つまり室温は低く、根域だけより高い温度で維持した場合は葉の数はひと株あたり186.5枚となり、圧倒的になりました。
つまり根への加温がいかに重要かというのがわかります。
またこれが何故なのかという話をしていくと以下の文献(2)の解説が参考になります。
一方,根域加温区では培養液および根域の温度が上昇していることから,蒸散速度の向上は水の
(2)森山 友幸, 伏原 肇, 奥 幸一郎, 局所加温の部位および時間帯がナスの形態および生理に及ぼす影響, 園芸学研究/11 巻 (2012) 3 号
粘性と根の通導抵抗が減少して吸水量が増加し,葉への水の供給量が増加したことによるものと考えられた.
また,光合成速度は気孔開度に影響される(平沢,1994a)ため,本実験における光合成速度の向上は株元加温,根域加温区において葉への水の供給量が増加して葉の気孔が閉じにくくなり,気孔が開いた状態が長時間維持されたことによるものと推察された.
つまり、根域の温度の上昇は根の吸水量を増加させ、それが葉へよく流れ込むことに起因していると考えられます。
一般に葉の水分量が足りないと植物は「水分が足りないから失ってはいけない」と考えて気孔を閉じます。すると光合成の材料であるCO2が閉じた気孔を通れず入ってこないので光合成が不活性化して植物が成長しにくくなります。
つまり根を温めることで光合成が活発になり、室温が低くても高い光合成能力を維持できたために文献(1)のような結果になると推測されます。
ただ、これは一日のうちで夜間だけの影響を見たわけではないので、夜間だけ加温して最低根域温度を高温に維持した場合の説明としては完全では無いように思います。
というわけで以下の文献(3)を見てみると、夜間の根域温度を上げることに関する植物の反応が見えてきます。
文献(3):宇田川 雄二, 根温を異にした養液栽培イチゴの生理生態学的研究, 千葉農試特報19: 1~60 (1991)
この表2を見ると、イチゴで昼の温度を18℃に固定して、夜の根域の温度を8℃、13℃、18℃と変更した場合、吸水量が113.8[mL・day-1 ・plant-1]、120.3[mL・day-1 ・plant-1]、125.8[mL・day-1 ・plant-1]と増加しています。
つまり夜間に根域の温度を上げると根はよく水分を吸い上げ、昼間失った葉の水分量をより回復させた状態で次の日の朝を迎えられるというのが一つあるように思います。葉に水分が十分あるので、特に朝方に気孔が閉じにくくなるのでしょう。朝から光合成のスタートダッシュを決めやすいということです。
また文献(3)の表14によると、表2と同様の実験でイチゴで昼の温度を18℃に固定して、夜の根域の温度を8℃、13℃、18℃と変更した場合、葉の総面積は8℃で715[cm2]、13℃で735[cm2]、18℃で767[cm2]と夜間の根域温度が高いほうが葉の面積は増大しています。
やはり葉が多くなるということはそれだけ光合成が活発になっていることが考えられ、夜間に葉の水分が回復するというのも大きく外した考察では無いと思います。
つまり昼間の根域の温度を上げれば気孔が閉じにくくなって光合成が活発になるし、夜根域の温度を上げても根が吸い上げる水が多くなって朝方の光合成に有利であるという理屈が考えられます。
また根域温度が下がることによる転流の抑制という視点もあります。
このようにトマトの同化産物の転流適温については,比較的,低温(8℃)であるとする説と高温(20〜30℃)にあるとする説があるが,一般的には,同化産物の転流は,20℃〜30℃)から温度が低下するにしたがい抑制されることが知られている23)24).
(4)久富時男, 森岡和之, 良品多収のための環境管理基準の設定に関する研究(第2報), 奈良県農業試験場研究報告(第6号)1974
根域の低温は転流を抑制し、結果として光合成の能力を低下させるという可能性があります。それについて解説したのが以下の文献(5)になります。
例えば、(1)ソース能に比較しシンク能が相対的に低く生産能の制限要因として働く場合には、ソースで生産された光合成産物をシンクへ移動させ貯蔵させることは難しく、光合成産物が葉に集積していき、このことが引き金になって光合成能がやがて低下する。
(5)藤田耕之輔, 植物生産能のシンクによる制御, (広島大学)
また根の温度(シンクの温度)が下がると代謝が減って、ソースとシンクの内圧差が低下するので転流が抑制されるというのはあるようです。
素人考えに、高温によりシンクでの呼吸量が増加した結果、シンクのスクロース消費も増え、内圧差が高まるからでは、と推測したのですが、いかがでしょうか。
〔……〕
温度を下げると一般に代謝は低下しますが、転流の場合、糖を篩管細胞に集積するために、ミトコンドリアというオルガネラの代謝を必要とするので、そういうことはあるかと思います。
〔……〕
ただし、ソース葉とシンク組織の間の篩管を介する輸送が温度によってまったく影響を受けない場合においてです。
一般社団法人日本植物生理学会, 転流と温度について
内圧差と転流に関しては以下の情報が役立ちます。
篩管における溶液の流れは、ソースとシンクの間に出来る内圧の差によって駆動されると考えられています。つまり、ソース付近の篩管では、スクロースが積み込まれますので、糖濃度が高まります。このため水が篩管(篩要素)内に流入し、膨圧が高まります。一方、シンク付近では、スクロースの積み下ろしが起きるので、結果として膨圧が低下します。
一般社団法人日本植物生理学会, 師管の物質輸送機構について
ヒートマットで温めるのは室温が下がりすぎていないならアリ
以上から、確かに室温があまりにも下がっている状況ではヒートマットの効果は限定的になるでしょうけど、あとちょっと温かければいいのになあという状況は日本の冬の室内ではよくある状況なので、経済性も結構優れるヒートマットを利用するのもアリだと思います。
実際にヒートマットで冬の観葉植物の生育が良くなったという報告はインターネット上に多いのですが、室温20℃以上くらいで検証したパターンが多く、今回の趣旨である「ギリギリどのくらいの室温まで下がった状態でヒートマットが有効か」という説明にはなりにくいです。
では室温9℃で根域温度が14℃というのは観葉植物にとっていけそうか、という話になります。
文献(1)のインパチェンスの例で解説します。
春の早期出荷のためには冬季に播種し育苗する必要があるが,インパチェンスの生育適温は 20~25°C
文献(1)より
であり,15°C 以下で花付きの減少や生育が劣り,5°C 以下では生育が停止する(西村,1994).従って,冬季栽培には 15°C 以上に加温することが望ましいが,生産者によっては 13°C 程度に最低気温を抑え,経費の節減を図っている.
インパチェンスでは13℃の室温でギリギリのところを根だけ13℃で室温8℃にしても13℃室温を維持する管理と植物の成長がほとんど変わりません。つまりギリギリの室温より5℃くらい低い条件ならいけるんじゃないかと思います。
つまり10℃ギリギリまでかろうじていけるモンステラにおいては、この理屈だと室温5℃くらいならいけるかもしれません。
ただし、安全率をとると、やはり根域温度14℃程度で室温9℃くらいならギリギリなんじゃないかと思います。
少なくても我が家のモンステラは室温9℃前後、ヒートマット設定温度13℃で枯れずに生育しています。
まあこれもひと冬過ごした結果ではなく、強烈な寒波を3回くらい経験したときの話なので、今後データが貯まったらまたご報告する予定です。
まとめ:ヒートマットで根域加温も結構いいのでは?
今回はモンステラの冬越しでヒーターをどうするという話題でした。
ヒートマットは電気ヒーターより経済性で優れる場合が、特に少ない鉢数ではあるので、検討してみるといいんじゃないでしょうか?
